人口減少が日本の喫緊の課題となる中、異例の人口増加を続ける都市がある。福岡市だ。2020年の国勢調査では、政令指定都市の中で人口増加数・増加率ともに1位を記録。若年層(15歳〜29歳)の割合もトップクラスを誇る。
しかし、この活況は決して「偶然の産物」ではない。そこには、強力なリーダーシップのもとで進められる行政の規制緩和、それに応える民間企業の熱量、そして都市の背骨を支える西日本鉄道(西鉄)による緻密な沿線戦略が複雑に、かつ有機的に絡み合っている。福岡市が実践する「福岡モデル」の深層に迫る。
1. 移住のハードルを「希望」に変える。福岡市の仕事創出戦略
移住を検討する際、最大の懸念事項となるのが「仕事」だ。多くの地方都市が補助金による「呼び込み」に終始する中、福岡市は「仕事そのものを生み出す土壌」を作ることに注力した。
国家戦略特区としての挑戦
福岡市は2014年、国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」に選定された。これが大きな転換点となる。市は「スタートアップビザ(外国人創業活動促進事業)」の導入や、法人税の軽減措置など、既存の枠組みを打ち破る規制緩和を次々と実施。これにより、国内外から起業家が集まる「アジアのスタートアップハブ」としての地位を確立した。
起業家が集まれば、そこに雇用が生まれる。特にIT・クリエイティブ産業の集積は、場所を選ばない働き方を求める移住者にとって強力な磁石となった。「福岡に行けば、面白い仕事がある」「福岡なら、新しいことに挑戦できる」という空気感の醸成こそが、最大の移住対策となったのである。
「クオリティ・オブ・グロース」の追求
福岡市が掲げる「クオリティ・オブ・グロース(質の高い成長)」という哲学も、移住者を惹きつける大きな要因だ。これは、単なる経済指標の拡大ではなく、市民の生活の質(QOL)の向上を伴う成長を指す。
空港から中心部まで地下鉄で約5分という「世界一」とも称されるアクセスの良さ、海と山に囲まれた豊かな自然環境。これらを活かした「職住近接」のライフスタイルは、通勤ラッシュに疲弊した首都圏居住者にとって、何物にも代えがたい価値として映っている。
2. 官民共働のプラットフォーム:FUKUOKA growth next
福岡市の地方創生を象徴する場所が、天神エリアにある。旧大名小学校をリノベーションしたスタートアップ支援施設「FUKUOKA growth next (Fgn)」だ。
ここは、単なる「場所貸し」のオフィスではない。市が施設を提供し、福岡地所やさくらインターネット、三井不動産といった民間企業が運営を担う官民共働のプラットフォームである。校舎の中には、シェアオフィス、コワーキングスペースだけでなく、バーやカフェも併設されており、起業家、エンジニア、投資家、そして移住してきたばかりのクリエイターが日常的に交流する。
特筆すべきは、施設内に設置された「福岡市スタートアップカフェ」だ。ここでは、移住後の起業相談や副業の相談をワンストップで行えるほか、弁護士や税理士といった専門家へのアクセスも容易だ。行政が「伴走者」として民間の隣に立つこの姿勢が、移住者の不安を安心へと変えている。
3. 西鉄が描く、移動とコミュニティの新しい形
福岡の都市機能を語る上で、西鉄(西日本鉄道)の存在は欠かせない。同社は鉄道・バスという公共交通網の枠を超え、福岡の「暮らしの質」をデザインするプレイヤーとして地方創生に深くコミットしている。
移住者の「孤独」を解消する「HOOD天神」
移住後の離脱(再移住)を防ぐ鍵は、地域コミュニティへの定着にある。西鉄は、移住者支援プロジェクト「福岡移住計画」とタッグを組み、天神に「HOOD天神」を開設した。
ここは、移住検討者や移住したての人々が、地元住民や既存のビジネスコミュニティと繋がるための「街の縁側」だ。西鉄という伝統ある企業が、あえて「福岡移住計画」のような柔軟な民間団体と手を組むことで、行政だけでは手の届かない「ソフト面の定着支援」を実現している。
沿線活性化と「脱・車社会」のモデル
福岡市という「点」の成長を、九州全体や沿線自治体という「面」の成長へと広げるのも西鉄の役割だ。
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MaaS(Mobility as a Service)の推進: 福岡市と協力し、AIを活用したオンデマンドバス「のるーと」の運行や、交通アプリの統合を進めている。これにより、都心部だけでなく郊外においても、車に依存しすぎない豊かな生活環境を整備。高齢者や子育て世代が安心して移住・定住できる基盤を作っている。
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「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」による地域ブランド化: 沿線の風景を楽しみながら地元の食材を堪能できる観光列車は、単なる観光資源ではない。沿線自治体の農家や職人と連携し、地域の魅力を再発見させるこの取り組みは、福岡市中心部から周辺地域への人の流れを生み、将来的な関係人口・定住人口の創出に寄与している。
4. 「天神ビッグバン」が加速させる、次世代の都市像
現在、福岡市は「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」といった、100年に一度と言われる大規模な再開発の渦中にある。これは単なるビルの建て替えではない。
容積率の緩和や航空法による高さ制限の緩和を武器に、耐震性が高く、最先端のICT機能を備えたオフィスビルを誘致。これにより、さらなるグローバル企業の拠点化を狙っている。
この再開発によって生まれる「質の高い働く場」は、移住者の層をさらに厚くするだろう。高度なスキルを持つデジタルノマドや、グローバル展開を見据える起業家たちが福岡を拠点に選ぶことで、街の多様性とレジリエンス(回復力)はさらに高まっていく。
5. 結びに:福岡モデルが日本に教えること
福岡市の地方創生が成功している最大の理由は、「民間が動きやすい環境を、行政が覚悟を持って作る」という信頼関係にある。市長自らがトップセールスを行い、規制緩和という「武器」を民間に渡す。それを受け、西鉄のようなインフラ企業が、単なる自社の利益を超えて「街の価値最大化」のために動く。
福岡の挑戦は、まだ終わらない。都市の成長に伴う地価の高騰や、混雑の緩和といった新たな課題も浮上している。しかし、この街には「官民連携」という強力な解決エンジンがある。
「アジアのリーダー都市」を目指す福岡市と、その足元を支える西鉄。彼らが描く未来図は、閉塞感の漂う日本の地方創生において、進むべき道を指し示す一条の光となっている。
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