【観戦記】長崎スタジアムシティが魅せる「究極の熱狂」。サッカークラブが地方創生の核となり、移住したくなる理由

滝本颯真
滝本颯真
3/16/2026
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企業/団体の取り組み
【観戦記】長崎スタジアムシティが魅せる「究極の熱狂」。サッカークラブが地方創生の核となり、移住したくなる理由

週末、2024年10月に長崎県に誕生した巨大プロジェクト「長崎スタジアムシティ」へ足を運んできた。スタジアムに一歩足を踏み入れた瞬間の圧倒的な臨場感と、街全体を包み込むような熱気は、今でも私の肌に強く焼き付いている。

企画・建設に約6年間を費やし、サッカースタジアムを中心として、アリーナ、ホテル、商業施設、オフィスの5つの施設から構成されるこの場所は、スタジアムシティという名のとおり、まさに一つの「町」として機能していた。

しかし、今回私が現地で最も強く感じたのは、単なる「最新鋭の巨大複合施設の凄さ」だけではない。一つのプロサッカーチームがハブとなり、地域課題を解決し、大きな経済圏を生み出し、そして最終的に「この熱狂のある街に住んでみたい」と思わせるほどの強烈な引力を放っていたことだ。

今回は、一人のサッカーファンとしての純粋な感動体験を出発点とし、Jリーグが推進する「シャレン!(社会連携)」の視点も交えながら、地方創生の最前線としての長崎の魅力をお伝えしたい。


第1章:圧倒的な没入感と「非日常」が交差するスタジアム体験

長崎のプロサッカークラブ「V・ファーレン長崎」の新たな本拠地、「PEACE STADIUM Connected by SoftBank(ピース スタジアム)」。ここの最大の魅力は、なんといってもピッチと観客席の距離感だ。

スタンドとピッチの幅は、Jリーグの最短基準であるわずか「5メートル」で設計されている。選手の荒々しい息遣い、ボールを蹴る重い衝撃音、監督の指示、そしてサポーターの地鳴りのような歓声がダイレクトに体を貫く。日本一近くでJリーグの観戦が楽しめるこのスタジアムは、控えめに言って「異常」なほどの没入感をもたらしてくれる。全席が屋根で覆われ、ドリンクホルダー付きで座席幅も最大60cmとゆったりしているため、雨天時でも快適に観戦できるホスピタリティの高さも特筆すべき点だ。

さらに驚かされたのは、スタジアム全体に張り巡らされたテクノロジーと、エンターテインメントの仕掛けである。試合の前後には、地元のエイサーなどのパフォーマンスが披露され、長崎を訪れたアウェイサポーターにもその土地の文化や伝統を自然な形で伝える仕組みができあがっていた。サッカーを見に来たはずが、いつの間にか長崎という土地そのものの魅力に引き込まれていくのだ。

そして、スタジアムグルメの概念もここで完全に覆された。今回私が食べたのは、地元長崎の新鮮な魚介をふんだんに使った「海鮮丼」だが、切り身が驚くほど分厚く、脂が乗っていて新鮮そのもの。いわゆる従来の「スタ飯」の枠を完全に超えており、港町・長崎の食のポテンシャルを強烈に見せつける一杯だった。さらに、日本で初めてサッカースタジアム内に誕生したブルワリー「THE STADIUM BREWS NAGASAKI」では、インターナショナル・ビアカップで金賞を受賞した醸造家が手掛ける出来立てのオリジナルクラフトビールを味わうことができる。試合の熱狂とともに味わう地元の食とビールは、まさに至福の体験である。


第2章:試合日以外も行きたくなる、完璧なエコシステム

昨年11月にスタジアムツアーに参加した際にも感じたことだが、長崎スタジアムシティは単なる「週末の競技場」ではない。ここには、「試合がない日でも行きたくなる」完璧なエコシステム(生態系)が完成している。

施設内には約90店舗が出店するショッピングモールがあり、長崎初出店のセレクトショップや直営の回転寿司店などが軒を連ねる。スタジアム上空を滑空し、長崎の港や稲佐山の絶景を楽しめる日本初の「ジップライン」や、バラエティ番組のような大掛かりなアクティビティが30種類以上集結した屋内型スポーツ施設「VS STADIUM NAGASAKI」など、遊びの選択肢は無限大だ。

遊び疲れたら、地下1,500mから湧き出る天然温泉を使った温浴施設「YUKULU」で心身を癒やし、日本初の「サッカースタジアムビューホテル」に滞在する。客室やプール、サウナからピッチを一望できるラグジュアリーな体験は、ここでしか味わえない。さらに、プロバスケットボールチーム「長崎ヴェルカ」のホームであり、音楽ライブなども開催できる可変型アリーナ「HAPPINESS ARENA」も併設されている。夜になればスタジアムを活用したレーザーショー「NIGHT MIRAGE」が夜空を彩る。

これだけの極上のエンターテインメント施設が、JR長崎駅から徒歩約10分という街の中心部にあるのだ。この空間が「自分の住む街の日常」にあることを想像してみてほしい。休日のワクワク感が何倍にも膨れ上がり、生活の質(QOL)が劇的に向上することは間違いないだろう。


第3章:サッカークラブは「社会課題解決のハブ」になる。Jリーグの「シャレン!」とは

この長崎スタジアムシティの熱狂を紐解く上で欠かせないのが、プロスポーツクラブと地域社会の関わり方だ。現在、Jリーグでは「シャレン!(社会連携活動)」というプロジェクトが強力に推進されている。

シャレン!とは、社会課題や共通のテーマ(教育、ダイバーシティ、まちづくり、健康、世代間交流など)に対し、Jリーグのクラブが地域の人々や企業、自治体と連携して解決を目指す取り組みのことだ。サッカークラブはもはや「週末に試合をするだけの興行集団」ではなく、地域のハブとなって課題を解決し、地方創生を牽引するエンジンとなっている。ここで、他クラブの優れたシャレン!の事例を2つ紹介したい。

事例1:徳島ヴォルティス×美馬市×大塚製薬「ソーシャルインパクトボンドを活用した健康増進プログラム」 徳島ヴォルティスは、地元自治体の美馬市、そして大塚製薬と連携し、「ソーシャルインパクトボンド(SIB)」という民間資金を活用した社会課題解決スキームを導入した。これは、ヴォルティスのプロスタッフが市民(参加者の半数が65歳以上)に対してコンディショニングプログラムを提供し、運動習慣の定着などの成果が出た場合、自治体が対価を支払うというものだ。結果として、市民の健康寿命が延び、医療費や介護給付費への削減効果が約1500万円に上ると試算された。プロスポーツクラブの知見が、地方の超高齢化社会における医療費圧迫というリアルな課題を解決に導いた画期的な事例である。

事例2:ヴァンフォーレ甲府×山梨県×明治大学「スタジアムを活用した地方企業と大学生のマッチング」 地方における「若者の人口減少」と「地元企業の人材不足」は深刻な課題だ。ヴァンフォーレ甲府は、明治大学のゼミと連携し、「キャリスタ」という就活イベントをホームゲーム開催日のスタジアムで実施した。スタジアムという熱気あふれる非日常空間を活用することで、大学生はリラックスして地元企業(クラブのスポンサー企業など)の担当者と交流することができる。これがIターンやUターンの強力なきっかけとなり、地方の雇用創出と若者の定住促進に直接的に寄与しているのだ。


第4章:V・ファーレン長崎がもたらす「経済圏」と「未来への種まき」

こうしたシャレン!の理念を踏まえた上で、改めて今回の長崎遠征を振り返ると、V・ファーレン長崎がこの街にもたらしている影響の大きさに圧倒される。

まず実感したのは、すさまじい「経済波及効果」と「街の熱気」だ。 私が乗車した行きの新幹線は、対戦相手であるアビスパ福岡のサポーターでほぼ満席だった。試合日になると、県外からこれだけの膨大な数の人々が一斉に長崎へ移動し、宿泊し、食事をし、観光を楽しむ。駅周辺からスタジアムへの導線で、巨大な経済圏が生まれているのを目の当たりにした。

そして、そのアウェイサポーターを迎え撃つ長崎の街も、恐ろしいほど熱かった。スタジアム周辺の商店や飲食店はもちろんのこと、驚くべきことに地域のガソリンスタンドに至るまで、ポスターやのぼりを掲げ、地域全体で長崎を盛り上げようとする空気が充満していたのだ。クラブが単なるスポーツチームを超え、「地元の誇り(シビックプライド)」として機能し、人とコミュニティを強く結びつけている何よりの証拠である。

もちろん、V・ファーレン長崎自身も強力なシャレン!活動を展開している。 被爆地・長崎をホームとするクラブとして、「平和の尊さ」を国内外へ発信する活動はクラブのアイデンティティそのものだ(スタジアム名に「PEACE」と冠されているのもその表れである)。

また、県内の自治体(東彼杵町など)と連携し、地域の子どもたちや住民を対象にした「SDGsを楽しく学ぶカードゲーム大会」や、地域の魅力を再発見する「フィールドワーク・マップ作り」などを実施している。人口流出や少子化に悩む地方都市において、クラブのスタッフが直接地域に入り込み、次世代を担う子どもたちに「自分たちの町の魅力」を気付かせる未来への種まきを行っているのだ。


第5章:熱狂のある街、長崎で暮らすという究極の選択

長崎スタジアムシティは、スポーツエンターテインメントの最高峰であると同時に、これまで日本中の自治体が手探りで進めてきた「地方創生」の一つの完成形、あるいは歴史的な最適解になる予感がしている。

最新テクノロジーが導入されたスマートな街並みの中に、プロスポーツの熱狂があり、分厚い海鮮丼のような豊かな食があり、心身を癒やす天然温泉がある。そして何より、V・ファーレン長崎というクラブを中心にして、地域住民が一つになって街を盛り上げようとする「温かいコミュニティ」が存在している。

人口減少社会において、私たちが移住先や定住先を選ぶ基準は何だろうか。家賃の安さや自然の豊かさも重要かもしれない。しかし、人生を真に豊かにしてくれるのは、「週末に心から熱狂できる場所」と「誇りを持てるコミュニティ」が身近にあることではないだろうか。

この熱気あふれる空間を「日常」にできる長崎の人々が、私は心底うらやましくなった。週末ごとに極上のエンターテインメントと地元の温かさに触れられるこの街は、リモートワークが普及した現代において、移住先としてこれ以上ないほど魅力的な選択肢である。

サッカーを愛する人はもちろん、人生を豊かにする刺激や、人との繋がりを感じられる場所を探している人は、ぜひ一度この長崎スタジアムシティを体感してほしい。スタジアムに響き渡る歓声と、街を包む熱気に触れた瞬間、あなたはきっと、長崎という街で生きてみたくなるはずだ。

長崎スタジアムシティ公式HPはこちら👉