〜点はあっても、線がない。私たちが繋ぐべき未来の境界線〜

2026年2月24日から26日の3日間。私は、和歌山県の主要3拠点を巡る「南紀白浜進出視察ツアー with 和歌山市」に参加しました 。主催は白浜町、田辺市、和歌山市、そして和歌山県企業立地連絡協議会の4団体連名です 。
IT、コンサル、不動産といった多岐にわたる分野の精鋭が集結したこのツアーで、私は一人の起業家として、そしてエンジニアとしての視点から、この地の「理想」と「冷徹な現実」を凝視し続けました。そこで得た最大の気づきは、「素晴らしい『点(リソース)』は無数に存在するが、それらが『線』や『面』として繋がりきっていない」という贅沢すぎるもどかしさでした。
この未完成のパズルをどう解き明かし、ゲームチェンジを起こすべきか。私が見た景色のすべてをここに記します。

【自己紹介】私が和歌山を歩いた理由
レポートの本題に入る前に、私がどのような視点で和歌山を観察したのかをお伝えするため、簡単に自己紹介をさせてください。
代表取締役社長:滝本 颯真(Soma Takimoto) 私は大学で知能制御工学を専攻してきました 。これまでに、MaaS(Luup)、経済メディア(NewsPicks)、最先端テクノロジー(Apple)という、それぞれ異なる力学で動く3つの業界で事業推進を経験してきました 。 現在は、専門知識とコミュニケーション力を融合させた「技術と人をつなぐ力」を武器に、データドリブンな事業推進を実現することを目指しています 。
そんな「技術」と「ビジネス」の両輪を持つ私の目に、地方創生のフロントランナーである和歌山はどう映ったのか、レポート形式で紹介します。

【Day 1】白浜の衝撃と、「サテライトオフィス」への根源的な問い
空港から数分で「爆速ネット」の楽園へ
視察の幕開けは、羽田からわずか1時間のフライトで到着する南紀白浜空港でした 。到着ロビーを出て数分、最初に向かった「office cloud9」で私は言葉を失いました 。 そこには、まさにリゾートワークの理想郷がありました。「飛行機を降りてすぐに、絶景と爆速のネット環境に座れる」。この圧倒的なアクセスとインフラの充実に、参加者からも「思ったよりアクセスが良い」「温暖な気候で、ゲストを招きやすい」と感嘆の声が上がりました。

「あえてここで働く理由」への鋭い視点
しかし、設備が完璧であればあるほど、私の頭の中には冷徹な問いが浮かびます。
「東京回帰の流れがある今、設備が整っているだけでは不十分だ。あえてここでオフィスを構える『事業的な必然性』はどこにあるのか?」
単なるサテライトオフィスは、場所が変わっただけの「孤独な分室」になりかねません。重要なのは、和歌山ならではの事業領域——例えば、私が専門とする知能制御やデータ分析を活かした「不動産×移住支援」や「アパレル×観光」といった、地域のリソースを直接ハックするビジネスを生み出せるかどうか。その「必然性」の創出こそが、ハード整備の次に来る最大の課題であると確信しました。

地域課題の生々しさに触れる「ANCHOR」
夕刻、白浜のビジネスハブ「ANCHOR」で行われたワークショップでは、自治体側から極めて生々しい課題が提示されました 。
- 冬の閑散期: 温泉地としてのポテンシャルがありながら、冬場に人が来ない。
- 生活インフラの欠如: チェーン店がコンビニしかなく、移住者が求める「安心感」が足りない。
- 雇用の不在: 人を雇う場所がなく、人口減少に歯止めがかからない。

ここで私が特に重要だと感じたのは、移住者が求める「心理的セーフティネット」としてのチェーン店の存在です。
地元の人にとっては「せっかく移住してきたなら地元の個人店へ」と思うかもしれません。しかし、移住検討者にとっては「いつもの無印良品やしまむらがそこにもある」という安心感が、未知の土地へ踏み出す際の決定的な防波堤になります。心理的に、いつもの風景がそこにもあるということは、生活の継続性を担保する上で極めて重要なのです。

温泉が溶かした、企業間の境界線
初日の締めくくりは、白良浜を望む「ホテル三楽荘」での懇親会でした 。 ほとんどが一人参加だったにもかかわらず、白浜の温泉と食事が、私たちの心理的障壁を一気に溶かしました。この夜、白浜町長をはじめとする行政関係者と私たち参加企業の間で、単なる視察を超えた「団結感」が生まれました。酒の席で交わされた「和歌山のこの課題、私の知見で解決できるかもしれない」という共創の芽は、今回のツアーで得た何よりの収穫でした。

【Day 2】共同作業の魔法と、教育現場が突きつける地方の現実
教育現場の現在地:次世代エンジニアに贈る「実践」の重要性
2日目の朝、私たちは「田辺産業技術専門学院(情報システム科)」を訪問しました 。最新のIT現場やクリエイティブの最前線を経験してきた私の目には、ここの教育環境は「非常に丁寧な基礎固め」に重きを置いているように映りました 。
もちろん、ITの世界において基礎は不可欠です。しかし、日々進化するテクノロジーのスピードを考えると、いくつかの「伸び代」も感じずにはいられませんでした。
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最先端技術へのアプローチ 現在のカリキュラムは、ITパスポートや基本情報技術者といった資格取得が大きな柱となっているようです。今後は、そこにAI(人工知能)の活用や最新のトレンドを組み込むことで、学生たちの可能性はさらに大きく広がるはずです。
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「個」から「協働」へのシフト 2年間という限られた時間の中で、個人のスキルを磨くことは容易ではありません。だからこそ、今後はさらに一歩進んで、実際の企業を巻き込んだプロジェクトベースの学習や、チームでのグループワークといった「実践的な協働」の場が増えることを期待しています。
資格はあくまでスタートライン。その先にある「現場でどう応用するか」という視点を、少人数制ならではの密なコミュニケーションを活かしてもっと提供できれば、和歌山から世界へ羽ばたくエンジニアが次々と生まれるのではないか。そんなワクワクするような未来への期待を込めて、率直な意見交換をさせていただきました 。

みかんジャム作りが証明した「絆」の作り方
一転して、午後訪れた「秋津野ガルテン」でのみかんジャム作り体験は、ツアー中最大の盛り上がりを見せました 。 5〜6人の班に分かれ、泥臭く手を動かす「共同作業」。ここでは砕けたコメントや笑い声が飛び交い、自治体の職員さんも巻き込んで、私たちの壁は完全に溶けました。「一緒に何かを作る」という原始的なプロセスこそが、信頼関係構築の最短距離であることを再認識した瞬間でした。

アドベンチャーワールド:エデュテイメントの苦悩
続いて訪れたアドベンチャーワールドでは、経営陣との対話で「教育(エデュケーション)」をレジャーに組み込む難しさが語られました 。 「楽しさ」を求めて来園するゲストに対し、SDGsや絶滅危惧種の話をしても、伝え方を間違えれば「馬の耳に念仏」になりかねません。 これはまさにプロモーションの本質です。こちらが伝えたいことをそのまま伝えるのではなく、相手の受け止め方を想像し、PRや広報の仕方を設計する。知能制御的なフィードバック制御と同じく、相手の反応を見ながら情報を届けることの重要性を痛感しました。

【Day 3】和歌山市で見えた「ステータス」と「ハブ」の役割
最終日は、ビジネス都市としての和歌山市内を巡りました 。
地方における「ステータスな場所」の重要性
南海和歌山市駅ビルにオフィスを構える「Link-U Technologies」への訪問では、地方進出における「採用」の核心に触れました 。 和歌山市駅ビルは、スターバックスや蔦屋書店が併設され、アクセスも抜群な「ステータス」を感じさせる立地です。福岡という「地方発スタートアップ」の成功例を知る私から見ても、この「見た目や雰囲気の差」は重要です。「あの駅ビルで働いている」ということが、学生や親世代にとってのブランドになるのです。地方での人材確保には、こういった「働くことが誇りになる場所」への投資が不可欠です。

地域とスタートアップを繋ぐ「Key Site」の衝撃
午後に訪れた「Key Site(キーサイト)」は、まさに私が求めていた「点と点を繋ぐ線」となるための施設でした 。 旧銀行の重厚な空間をリノベーションしたこの場所では、スタートアップ、地場企業、学生が日常的に交わる仕掛けが施されています。ここで交わされた学生との意見交換では、彼らの「地方で働くこと」への不安と期待の両面を感じることができました。

2つの専門学校を巡って感じた、教育環境の可能性
午後の「和歌山コンピュータビジネス専門学校」への訪問では、前日の田辺での視察とはまた異なる、洗練された教育現場の姿を目の当たりにしました 。施設面はいずれも非常に充実しており、学生が学ぶ環境としては双方とも素晴らしいものです 。その中で、和歌山市内の学校ではパンフレットの見せ方やカリキュラムの伝え方に、時流を捉えた高い専門性が感じられました。各校それぞれの役割や特色がありますが、学生が常に新しい刺激を受け続けられるよう教育の質をアップデートし続けることが、次世代のIT人材を地域へ惹きつけるための大きな鍵になると感じています。

【総括提言】点を線へ、そして面へ。和歌山ゲームチェンジのロードマップ
登録者200万人超のYouTube編集を経験し、デジタルの最前線を見てきた私の目から、和歌山を劇的にアップデートするための具体的な提言をまとめます。
1. 「冬の来訪動機」の戦略的構築
現在は「夏の海」のイメージが強すぎて、冬場の最大の魅力である「温泉」や「食」が埋もれています。
「冬の和歌山こそが、実は最も上質な宿泊体験と静寂を提供できる」というブランディングへの転換が必要です。2月の和歌山がこれほどまでに温暖であることを、私たちはもっと戦略的に、動画やSNSを駆使して発信すべきです。

2. 「役立つ情報」へのデザインシフト
現状の和歌山のSNS発信は、美しい風景写真で足は止まるものの、具体的な「保存したくなる情報」が不足しています。
「発見タブ」で目に留まる表紙の作り込みや、クリックした瞬間に「あとで見返そう」と思わせるストック型コンテンツへのシフト。プロの編集視点で見れば、ここは改善の宝庫です。

3. 教育現場への「AIと外部視点」の強制注入
地域の教育機関には、どんどん都市部の先端企業の知見やAI教育を導入すべきです。「地方なりに」という妥協を捨て、Key Siteのようなハブ施設を拠点に、私たちのような外部の知見を持つ人間が教育に深く関与する仕組みが必要です。

4. 「外の人」の雇用による接着
行政や地域の中心に、移住者や東京での経験を持つ人材を積極的に雇用すること。ずっと住んでいる人だけでは気づけない「和歌山の弱点と強点」を客観的に見られる人材こそが、バラバラだった「点」を繋ぎ、一つの「面」へと変える最強の接着剤になります。」

結びに代えて:未完成ゆえの、圧倒的な期待
3日間の視察を終えた今、私は確信しています。
和歌山は、単なるビジネス拠点というよりも、「自分たちの知見を注ぎ込めば、この素晴らしいフィールドを劇的にアップデートできる」という手応えを感じさせてくれる場所です。
行政の皆さんの「なんとかしなければ」という本気の危機感と、私たちが持つデジタルの実行力が噛み合ったとき、和歌山は一気にゲームチェンジを起こすでしょう。
私は、この素晴らしい「点」を繋ぎ、和歌山の未来を「面」へと広げていくための伴走者でありたいと考えています。
「住みやすく、働きやすく、そして何より『変えがい』がある」。
和歌山で見つけたのは、そんな新しい地方創生の形でした。
今回の視察を支えてくださった事務局の皆様、そして共に未来を語り合った参加企業の皆様に、心より感謝申し上げます。

今回の記事の撮影担当:角田悠綺(合同会社Local Bridge CTO)
地域の魅力を最大化する伴走者として
合同会社Local Bridgeでは、SNSマーケティングから移住施策、アプリ開発まで、地域の課題にワンストップで対応いたします。
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合同会社Local Bridge
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